（C）2017 Florida Project 2016, LLC.

取材前に映画の宣伝会社から紙を渡された。これから取材するショーン・ベイカー監督が何度も聞かれ、飽きている質問のリストと、その回答だった。

「あなたはなぜマイノリティーを撮り続けるのか」が最も飽きた質問だという。大手新聞の記者はほぼこの質問を聞くそうだ。

ただ、ベイカー監督の最新映画『フロリダ・プロジェクト　真夏の魔法』（5月12日公開）は、"社会問題"と肩肘張らず、万人が見れる、そして見て欲しい映画だ。

「今、厳しい現実を描くことが重要とは思わなかった。その辺りは観客がインスピレーションを得て、映画を見た後にググればいいこと。そういう気持ちになってもらえればいい」

ベイカー監督は映画について、こう語る。

この映画はかわいくて、かわいくて、ちょっとつらい。

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舞台はアメリカ・フロリダのオーランド。「夢の国」ディズニー・ワールドのすぐ側にある安モーテルで暮らす6歳のムーニー（ブルックリン・キンバリー）、そして若い母ヘイリー（ブリア・ヴィネイト）の物語だ。

ベイカー監督にとっては、全編iPhoneで撮影し、トランスジェンダーの娼婦の一日を描き話題となった『タンジェリン』に続く作品となる。

ヘイリー（左）とムーニー

（C）2017 Florida Project 2016, LLC.

着色料たっぷりの菓子のようなギフトショップに、アイスクリームの甘さ。自然の匂いと冒険譚。そしてフロリダの青い空。

まるでインスタグラムのフィルターをかけたような世界の中で、ちょっぴりやんちゃなムーニーは友達とハイウェイ沿いを闊歩し、空き家を探検し、いたずらを仕掛ける。

ディズニーワールドには行けないけれど、ムーニーの毎日は楽しさでいっぱいだ。

アメリカの話だが、ゲーム『ぼくのなつやすみ』のように、懐かしい夏の日で満ちている。

かわいらしさの裏側にあるもの

映画では子供であるムーニーの視線に合わせ、カメラも低い位置を取る。

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母のヘイリーは「ヒドゥン・ホームレス（隠れたホームレス）」と呼ばれる、社会的信用がなく家が借りられないため、モーテル暮らしする人々の一人だ。

もともとストリッパーだったが、客への性的サービスを拒否して、今は水増しした香水を観光客に売っている。

モーテルは一晩38ドル。ひと月計算で考えれば決して安くないが、定職のないヘイリーたちにはここしか居場所がない。

母親役のブリア・ヴィネイトがベイカー監督がインスタグラムで発見し、オファーをかけた。

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言動は決して褒められたものではないヘイリー。けれど、ムーニーにとってはいつも味方の優しい母親。香水売りだって、子供のムーニーにとっては楽しい日常だ。

そんな親子を、モーテルの管理人ボビー（ウィレム・デフォー）は何かと世話をやく。

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お金に困ったヘンリーが売春用の写真を撮るときでさえ、親子は楽しみながら撮影するし、目を背けたくなるつらい場面はあえて出てこない。

社会問題を描きながら、悲惨さをあえて描かない理由はなぜなのか。

「この映画はドキュメンタリーじゃないから、こんな悲惨なことが起こっているんですと、統計とかファクトで圧倒するつもりはなかった」

「むしろムーニーと友達が過ごしたひと夏を、誰もが子供時代に経験しているはず。ムーニーたちと体験を共有することで、彼らに人として共感を持って欲しかった。その後に興味を持って、調べてもらえればいいんだと思う。親の苦労や子供の貧困を描いた映画はたくさんあるわけだから」

ベイカー監督はそう答える。

Tatsunori Tokushige / Buzzfeed

共同脚本家のクリス・バーゴッチの母がフロリダに住んでおり、バーゴッチから夢の国のすぐ近くの現状について教えてもらったというベイカー監督。

これまでの作品同様、リサーチに時間を割き、撮影時もモーテルの実際の住人たちに話を聞いたという。

「現地ですごく感じたのは彼らが変化を求めているコミニティであるというところで、胸を打たれた。最初はこういう状況は大企業、例えばディズニーが悪役でというイメージでいたんだけれど、決してそうではなかった」

「ヒドゥン・ホームレスは社会問題だけど、フロリダのこのエリア独特の問題ではなく、国規模の問題。人や会社が悪いというのではなく、国のレベルで適正な価格の住宅の提供や、住宅危機に対する出資が足りていないというのが根にある」

Tatsunori Tokushige / Buzzfeed

映画のように、実際にモーテルでの取材で売春している人はいたのか。

ベイカー監督は質問に対し「ああ...。バックページという広告サイトを使ってという話は出てきた。映画でエピソードがあるのは、そのリサーチがあるから」と答える前に、ちょっと躊躇があった。

リサーチの中、映画の舞台である192号線沿線と子供と検索すると、10代の子供たちが売春して保護されているニュースを見つけたからだ。

映画では描かなかった辛さや過酷さが、現実にはある。

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映画は世界中に映画祭で計57回受賞し、出演したベテランのウィレム・デフォーは今作でアカデミー賞、ゴールデングローブ賞の助演男優賞にノミネートされた。

「露出が増えてば増えるほど、描いている社会問題や状況が皆さんの目に触れるので、それが嬉しい」

まずは映画では、ムーニーたちと一緒にフロリダの夏を楽しみ、そして"マジカルエンド"と呼ばれるエンディングを見てほしい。

そして願わくばネット検索して、ディズニーワールド横の現実を知ってほしい。